松たか子が語る“当て書き”された役柄と『スロウトレイン』の魅力「とても心に響く作品で、参加できることが幸せだと感じた」

松たか子が語る“当て書き”された役柄と『スロウトレイン』の魅力「とても心に響く作品で、参加できることが幸せだと感じた」

TBSでは1月2日(水)よる9時から、新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』を放送する。本作は鎌倉に住む渋谷葉子(松たか子)、都子(多部未華子)、潮(松坂桃李)の性格の違う3姉弟(きょうだい)に訪れる、“人生”という旅路の分岐点のもようを描いた新時代のホームドラマだ。

ここでは、主演を務める松に演出を手掛ける土井裕泰監督や、野木亜紀子の脚本についての印象を語ってもらったほか、多部、松坂らとの共演エピソードを聞いた。

“当て書き”された葉子に自分を重ねて考える

新春スペシャルドラマ 『スロウトレイン』より

――本作の座組を知ったときの印象と脚本を読んでの感想を教えてください。

『運命の人』(2012年)以来大変お世話になった土井監督の卒業制作ということでお声がけいただき、とてもうれしかったのを覚えています。私は野木さんが脚本を手掛ける作品に出演することが初めてで。脚本を読んだときに、すごく面白くて感動しました。同時に、私が演じる葉子は地に足の着いた普通の生活を送るしっかりした人物で、自分にその説得力があるか少し不安にもなりました。この作品には大きな事件やどんでん返しはないのですが、物語全体がとても心に響くもので、こうしたドラマに参加できることは本当に幸せだなと感じながら、撮影を楽しみにしていました。

――野木さん曰く、葉子は当て書きということですが、実際に演じられていかがですか?

自分ではどの辺りが当て書き部分なのか分からなかったのですが、「自分のまま演じればいいってことなのか?」と思いつつ、自分と何か重なるところはないか考えました。葉子は妹や弟から見れば家族であり、職場仲間からは「色々と背負っていて大変だね」と思われている女性。でも、葉子自身はその苦労を他人に理解してほしいと訴える人ではありません。むしろ、受け入れながら「今日をどう生きようか」と考え、壁にぶつかるたびに進む方向を変えながら歩んでいくような人だと感じました。そういったところには共感できますが、ただ葉子ほど私は強い人間ではないです。葉子は誰かに助けを求めるのが得意ではありませんが、周りには元担当作家の百目鬼見先生(星野源)や葉子の過去に関わる人物の目黒さん(井浦新)といった話を聞いてくれる存在がいる。葉子さんがどこまで私と重なるのかは分かりませんが、彼女のように自分を支えながら生きる女性はとても魅力的だと感じます。

土井監督の新たな一面を知る機会に

新春スペシャルドラマ 『スロウトレイン』より

――撮影期間中、土井監督らしい演出を受けた場面はありましたか?

土井監督から「やりすぎ!」「もっと!」などという要望はあまり言われなかった気がします。どちらかと言えば、常に私たちを見守ってくれていて、いつの間にか撮影が終わっているような現場でした。ただ、土井監督が役者1人ひとりが持つ個性を受け入れてくれたことで、脚本より少し柔らかい雰囲気を持つ映像になっているかもしれません。

――松さんから見た土井監督はどんな方ですか?

きっと私たち役者に対して、「うまく演じてくれ」というような不満も抱えてらっしゃると思うのですが、そんな素振りは1ミリも出さずにそっと見守ってくれる方です。その中で役者や若手のスタッフに対しても、自分がやったほうが速いと分かっていることも、さりげなく「こうじゃないかな?」と教えてくださいます。今回、土井監督の卒業制作ということでさまざまな世代のスタッフが集結しているのですが、役者やスタッフ1人ひとりにエネルギーやヒント、力をもらって演出されている方なんだと。そして、土井監督は皆さんから愛されているんだなと改めて感じました。

韓国・釜山のロケで3姉弟の絆が強固に

――妹と弟役を演じる多部さん、松坂さんの印象を教えてください。

多部さんとは舞台「兎、波を走る」以来、松坂くんとは初めましてで。お2人とも撮影中に「この場面、どうしましょうか」など話し合う必要がないくらい最高の妹、弟でした。そして、黙ってそこにいることもできる役者さんなので、とても居心地が良く、楽しかったです。

――お2人との撮影で印象に残っていることはありますか?

釜山でのロケがなかなか晴れず、曇りと雨ばかりで「ちょっと待機です」「1日、撮影が伸びました」と辛抱強く撮影をしないといけなかったんです。その時間はみんなで楽しく待つことができましたし、絆が深まったような気がします。

――ドラマのホームページのトップで使われている3ショットも釜山ロケでの一コマと聞きました。

3人で「私たち、この後も撮影があるよね」など話をしていたら、「終わりです」と言われて(笑)。3人で会話をすることが楽しかったですし、素敵な姉弟だなと思いました。

――星野さんとも芝居でご一緒するのは初めてだそうですね。

年末の特番でお会いする方というイメージ。お芝居は初めてだったので、知っていたようで知らない方と言いますか…。葉子と百目鬼先生はとても相性がいいなと思うぐらい、会話が弾むんです。まさかの展開が待ち受けていますが、百目鬼さんとの掛け合いはとても楽しかったです。星野さんは野木さん脚本のドラマをたくさん経験されていることもあり、その特徴をよく分かっていらっしゃって。なので、星野さんに合わせて会話をしていくことで、きっと作品の雰囲気が生まれていくんだろうなという安心感がありました。

チュ・ジョンヒョクの明るさに救われた撮影期間

――チュ・ジョンヒョクさんとは共演されていかがでしたか?

とても明るい方です。初めて日本語のセリフに挑戦するということで、分からないことがあると、私たちにスマートフォンを使ってインタビューしてくれて。その前向きな姿勢や明るさにとても救われました。

――釜山ロケには現地のスタッフ陣も参加されていたということですが、どんな現場でしたか?

皆さんとても元気でしたし、リハーサルからすごく前のめりに参加してくださる方が多かったです。とても自然な画や照明作りをしてくださいました。そして、ここは大事なシーンだなということを皆さんが言葉を超えて感じ取ってくださって、気合いを入れて臨んでくださいました。

特に印象的だったのは、私と松坂くんがお餅のようなものを食べ歩くシーン。何回か撮影できるように多めに用意してくださっていたんです。持ち道具のスタッフの女性がそのお餅を少しでも冷めないようにと、まるでひなを温めるかのように優しく包み込んで持っている姿がとてもかわいらしくてキュンときました。

寂しさと一緒に生きていくことを考える作品に

新春スペシャルドラマ 『スロウトレイン』より

――3姉弟に三者三様の人生という旅路の分岐点が訪れるという本作にちなみ、松さんご自身にとって分岐点になった作品は?

10代のときに出演した『ロングバケーション』(1996年/フジテレビ)ですかね。当時、目標にしていた舞台出演のチャンスをいただいたタイミングだったので、どうしたらいいのか悩みました。周りの方から「連続ドラマも1つのチャンスだよ」というひと押しもあってドラマに出演させていただいたのですが、そのときに舞台を選んでいたら、いまとは違うお芝居の道もあったのかなと。逆に、ドラマに出演したことで自分自身の考えが広がったので、私にとっての分岐点だったのかなと思います。

――最後に視聴者の方へメッセージをお願いします。

野木さんと土井監督が現代の家族の形やイメージを持って作られた物語だと感じたので、家族で見ても1人で見ても、きっと素敵な時間になると思います。劇中にわびさびの“さび”も出てきますが、寂しさと一緒に生きていくべき私たちの課題をちょっとだけお正月にふと立ち止まって考えていただけるような、そんな作品になっていますし、私もそうやって生きていきたいなと思っております。ぜひ1人でも多くの方と1月2日のこの時間、一緒に過ごすことができればうれしいです。

当て書きされた葉子のキャラクターをつかむために試行錯誤しながらも、居心地の良い共演者との撮影で葉子として生き切った松。土井監督の卒業制作ということで集まったスタッフたちと共に本作を作り上げたことで、土井監督の新たな一面に気づくことができたという。この新時代のホームドラマを通して大切な何かに気づき、心に響くひと時を感じてみては。

■番組概要

[タイトル]
新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』
[放送日時]
2025年1月2日(木)よる9時

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